
「AIを導入すれば仕事が楽になる」
生成AIが急速に普及する中で、このように考えている会社は多いと思います。
文章作成、メール返信、資料作成、情報収集、データ整理、議事録作成など、これまで人間が時間をかけて行っていた仕事をAIによって効率化できるようになりました。
これは会社にとって大きなメリットです。
しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。
AIを導入した結果、仕事が楽になるどころか、以前より忙しくなってしまう人が出てくる可能性があることです。
問題なのはAIではありません。
AIによって生まれた「時間の余白」を、会社や本人がどのように扱うのかです。
AI時代の生産性向上を考えるなら、単純に、
「1時間の仕事が15分になった。じゃあ残り45分でもっと仕事をしよう」では不十分です。
AIによって仕事のスピードが大きく変わるからこそ、人間側の仕事量や働き方についても同時に見直す必要があります。
AIで60分の仕事が15分になったら何が起きるのか?
分かりやすいように、仮の数字で考えてみましょう。
これまで60分かかっていた仕事があったとします。
生成AIを活用した結果、その仕事が15分で終わるようになりました。
すると45分の時間が生まれます。
ここだけを見ると、
「AIによって生産性が4倍になった」
と考えることもできます。
※60分÷15分=4という単純計算上の例であり、実際の生産性が必ず4倍になるという意味ではありません。
問題は、この後です。
空いた45分に仕事を詰め込んでいく
会社からすると、
「15分で終わるなら、残り45分で別の仕事ができるよね」となるのは自然です。
そこで、
「これもお願い」
「これもAIを使えばできるよね」
「この資料も作っておいて」
「ついでに分析もしておいて」
と仕事が追加されていきます。
すると結果的に、これまで1日に処理していた仕事よりもはるかに多くの業務を処理することになります。
例えば、以前と比較して業務量が2倍、3倍になっていく可能性もあります。
※2〜3倍はここでの説明のための仮の数字です。
これは必ずしも悪いことではありません。
会社として生産性が上がれば、売上や利益につながる可能性があります。
本人の成果が増え、評価や報酬につながるのであれば、大きなメリットにもなるでしょう。
しかし、
すべての人がその仕事量や変化のスピードに耐えられるわけではありません。
ここを見落としてはいけないと思います。
「時間が空いた=さらに仕事を入れられる」ではない
AI導入で注意したいのが、
時間的な余裕と、人間の処理能力を同じものとして考えてしまうことです。
AIによって作業時間が短縮されたとしても、人間の集中力や判断力まで同じ割合で増えるわけではありません。
例えばAIを使えば、資料そのものは短時間で作れるようになります。
しかし、
「この資料で本当に問題ないのか?」
「AIが間違った情報を出していないか?」
「どの情報を採用するべきなのか?」
「お客さんにどう提案するのか?」
といった最終判断は、人間が行う場面がまだ多くあります。
つまり、
作業時間は減っても、判断する回数は増える
ということが起こります。
AI時代は「作業疲れ」から「判断疲れ」へ変わる可能性がある
これはAI時代の働き方を考えるうえで非常に重要です。
これまでは、
文章を書く。
資料を作る。
情報を調べる。
データをまとめる。
といった「作業そのもの」に時間がかかっていました。
AIによって、この時間は大幅に短縮できる可能性があります。
しかし、AIが複数の案を一瞬で出してくれるようになると、人間側には別の仕事が発生します。
AIが出したものを「選ぶ仕事」が増える
例えばAIに、
「企画を10個考えて」
とお願いすれば、短時間で10案を出してくれます。
これまでは人間が10案考えること自体に時間がかかっていました。
AIなら短時間で生成できます。
しかし、人間は、
- どの案がいいのか
- 会社として実行できるのか
- お客さんに合っているのか
- 間違った情報が入っていないか
- ブランドイメージに問題はないか
などを判断しなければいけません。
AIによって「作る負担」が減った一方で、
確認する、選ぶ、判断するという負担が増える可能性があります。
これが続けば、肉体的には座って仕事をしているだけでも、精神的には疲弊する人が出てきます。
AIによる効率化を「仕事を増やすためだけ」に使わない
ここで誤解してほしくないのは、
AIによって仕事量を増やすこと自体が悪いわけではない
ということです。
AIを活用して生産性を高めることは、会社経営において重要です。
これまで10件しか対応できなかった仕事を、同じ時間でより多く対応できるのであれば、会社にとって大きな競争力になります。
問題は、
AIによって生まれた時間を100%新しい仕事で埋めることを当たり前にしてしまうことです。
AIで60分の仕事が15分になった。
↓
だから残り45分に別の仕事を全部入れる。
↓
さらにその仕事もAIで効率化する。
↓
空いた時間に、また別の仕事を入れる。
これを繰り返せば、理論上はどんどん処理できる仕事が増えていきます。
しかし、人間はAIではありません。
人間側の処理能力まで無限に拡張されるわけではありません。
AI導入で会社が見るべきなのは「作業時間」だけではない
これから会社がAIを導入するときには、
「何時間削減できたのか?」だけを見るのは危険だと思います。
もちろん、時間削減は重要な指標です。
しかし、それと同時に見るべきなのが、
①仕事量はどのくらい増えているのか?
→ AI導入前と比較して、一人の社員が担当する業務量が極端に増えていないか。
②判断する回数が増えすぎていないか?
→ AIが大量に生成する情報を、人間が確認・判断する仕事ばかりになっていないか。
➂AIを使える人に仕事が集中していないか?
→ 会社の中でAI活用が得意な社員だけに、次々と新しい仕事が集まっていないか。
④生まれた時間をすべて埋めていないか?
→ AIによって生まれた時間を、すべて追加業務で埋めることが本当に最適なのか。
こうした視点も必要になります。
AIを使える人ほど忙しくなる会社は注意が必要
AI導入の初期には、特に注意した方がいいことがあります。
それが、
「AIを使える人に仕事が集中する問題」です。
会社の中で生成AIに詳しい社員が一人いたとします。
すると、
「これAIでできない?」
「この資料もAIで作って」
「この業務も自動化できない?」
と相談が集まります。
本人もAIを使えば短時間で対応できるため、最初は処理できます。
しかし、それを繰り返していくと、
「AIを使って効率化している人ほど仕事量が増える」
という逆転現象が起こる可能性があります。
これは会社としても望ましい状態ではありません。
小田じゅん本来のAI導入は、一部の社員へ仕事を集中させることではなく、会社全体の業務構造を改善するために行うものだからです。
AI導入で必要なのは「余白をどう使うか」という設計
AI時代の会社に必要なのは
「AIによって何時間削減できるか?」だけではなく、「削減できた時間を何に使うか?」まで設計すること
だと思います。
例えばAIによって1時間の仕事が15分になったとしても、残り45分をすべて新しい仕事で埋める必要はありません。
一部を、
- お客さんとのコミュニケーション
- 新しい企画を考える時間
- 社員教育
- 業務改善
- チーム内での情報共有
- 新しいスキルを学ぶ時間
- これまで手が回らなかった重要業務
などへ使うこともできます。
これも立派な生産性向上です。
単純に「たくさん仕事を処理すること」だけが生産性ではありません。
AI時代は「忙しい人=優秀」という価値観も変える必要がある
これからAIがさらに普及すると、
「仕事が早い人」の定義も変わっていくでしょう。
これまでは8時間かかっていた仕事を、AIを使って4時間で終わらせた人がいたとします。
そこで、
「じゃあ残り4時間で、さらに同じ量の仕事をやって」
だけでは、AI導入による恩恵を社員が感じられません。
それが続けば、
「AIを覚えると仕事が増えるだけ」と思われてしまいます。
これでは、会社がAI活用を推進しようとしても、社員側が積極的にAIを使いたくなくなる可能性があります。
会社としてAI活用を定着させたいのであれば、
AIを使った結果、会社だけでなく働く人にもメリットがある仕組み
を考える必要があります。
AI時代の生産性向上は「仕事を詰め込むこと」ではない
AIによって仕事が速くなる。
これは間違いなく大きなメリットです。
しかし、
仕事が速くなった=空いた時間に限界まで仕事を入れる
という考え方だけでは、AI時代の働き方として不十分です。
重要なのは、
「AIによって何時間削減できたか?」
だけではありません。
「AIによって生まれた時間を、会社と社員にとって最も価値の高いことへどう再配分するのか?」
です。
売上を伸ばすために使う。
新規事業を考えるために使う。
お客さんへの対応品質を上げるために使う。
社員教育に使う。
業務改善に使う。
あるいは、一部を余白として残す。
会社や職種、また会社の業績や勢いによって正解は違います。
だからこそ、しっかりと目的や意味を持たせることが必要です。
まとめ|AIで生まれた「45分」をどう扱うかが会社の差になる
AI導入によって、これまで60分かかっていた仕事が15分になる。
これは会社にとって非常に大きな変化です。
しかし、本当に重要なのは「その後」です。
残った45分に仕事を詰め込み続ければ、確かに処理できる業務量は増えるでしょう。
それ自体が悪いわけではありません。
ただし、業務量の増加、判断回数の増加、仕事の切り替え、人による処理能力の違いを無視して仕事を追加し続ければ、AI導入によって逆に疲弊する人が出てくる可能性があります。
だからこそ、これからの会社に必要なのは、
「AIでどれだけ効率化できるか」という発想だけではありません。
その先にある、「AIによって生まれた余白をどう設計するのか」まで考えることです。
AIは、人間を限界まで働かせるための道具ではありません。
仕事のやり方そのものを見直し、人間がより価値の高い仕事へ時間を使えるようにするための道具として活用する。
AI時代の生産性向上では、この視点を見落とさないことが大切だと思います。
